お香。
これまで我が家では縁のなかったもの。
土産物なんかでもらったりしたことはあるけど、
こたろうに強い香りは不要だろうと
結局焚いたことはなかったと思う。
こたろうが逝って、ワンコ仲間さんに
お線香あげに行かせてください。
ってメールをもらってはじめて
あ、そういうものが要るのか。と気づいた。
近所に仏具屋さんがあるのを思い出して、
何日か経ってからようやく
重い腰を上げて買いに行った。
香立もないなーと最初はこたろうの
陶製の歯ブラシ立てで代用してたけど、
さすがになぁということで、この子を用意。
だけど使えなかった。
だって、頬が焼けるんだもん。
熱で左のほっぺが焦げ色になるんだもん。
ひえー、ごめーん。ってなるんだもん。
6年前あるじ姉がこたろうのマッサージ用に
アロマオイルをたくさん用意してくれた時、
こたろうは「ラベンダー」を選んだ。
なので、あたしはラベンダーの香りと
春こたろうが鼻先にくっつけていた
桜の香りのお線香を毎日焚いている。
越してきて間もなくこたろうが自由に
歩き回れなくなったのは確かだけど、
我が家にはこたろうの匂いが
一切残っていない。ほんと一切。
どこを探してもない。
部屋にもクッションにも夏キリンにも
布団にも服にもタオルにも
空瓶にためたこた毛にさえも。
あいつはすごい。
立つ鳥跡を濁さずとは言うけれど、
発つ犬跡を一切残さずだった。
そこまでしてくれんでもと正直思うけど、
こたろうは未練がましくメソメソ生きる
あたしを望んでいないらしい。
こたろうがそう望むなら、
あたしはそれに乗るしかないんだなぁ。
「おまえ」から「あいつ」に。
この距離感が切ないねぇ。